"I hope nothing." That is a downright lie.

「これは?」
「……坊っちゃんには少し地味ですね」
「じゃあ、これ」
「少し安過ぎるのでは?」
「なら、あっちは?」
「他の物をお願いします」
色とりどりの美しい宝石が散りばめられた指輪の数々。
流石は王室御用達の宝石店だけあってどれも一級品ばかりである。
けれど、セバスチャンはどんなに素晴らしい出来の指輪でもお気に召さないらしい。店員は困惑し、彼の傍らに居るシエルはとてつもなく不機嫌になった。
「時間の無駄だったな」
結局何も購入せずに店を出た二人は、寄り添うように石畳の道を歩いている。通行人達は美少年と、その隣の美麗な執事の組み合わせに好奇の視線を向けながら通り過ぎて行った。
「大体、指輪なんて両手の指を飾れるくらい持っているだろう」
「ええ。ですが、まだ足の指がいくらか余っておられますよ」
「そうきたか……」
「それに、妥協したくないのです。坊っちゃんの指を彩る特別な指輪ですから」
蕩けそうな笑顔に、シエルの頬が引きつった。
たかが指輪に何故そこまで拘るのか。
「なら、どうするつもりだ?お前の妙な拘りの所為でロンドン中の店は全て見て回ったんだぞ」
「そうですね…。良い機会ですから、休暇も兼ねてフランスにでも飛んでみましょうか?」
「馬鹿、そこまでしなくて良い!」
本気とも冗談ともつかない事を平気で口にしているあたり、この執事ならばやりかねない。
必死で止めるよう命じたシエルに、彼の執事は冗談ですよと茶目っ気たっぷりに片目を瞑って見せるのだった。



END.