翌朝。
カーテンを開け、部屋に朝日の暖かい光を入れる。
注いだアーリーモーニングティーを渡すと、良い香りだと言ってそれに口をつける。

いつもの朝。
いや、違う。
私を・・・見てくれない。
私を見つめるあの蒼く美しい瞳が、今日は逸らされたまま。


「あの、坊ちゃ・・・」

「今日の予定は?」

「・・・本日の予定は・・・」


予定を告げれば、そうかと一言残して早々に部屋を出て行くシエル。
まるでセバスチャンから逃げるように。


「坊ちゃん・・・」


ドアが閉まるのを見つめることしか出来なかった。

仕事中も会話は最低限。
書類を見つめているはずのシエルの瞳は、文字を追わずどこか虚ろで考え事にふけっているといった感じである。

(私のことを考えてくださっているのでしょうけど・・・)

どこか複雑である。
恋人が自分の事を考えてくれるのは普段なら嬉しいことだが。


「坊ちゃん」

これ以上思考にふけっていると疲れ切ってしまうのではないかと思い、声を掛けてシエルの気をこちらに向ける。


「なんだ?」


気はこちらに向いたが、視線はいまだに逸らされたまま。
それが気に食わずセバスチャンが眉を顰める。

(私を見て下さい。貴方のその美しい瞳に私を写して。)

シエルの顎に指を添えて顔を近づける。


「!?セバスチャ・・・」


驚いたシエルがようやくセバスチャンを見る。
瞳に映ったことに満足したセバスチャンがそのまま口づけようと距離を縮めた。

あと、少し。あと3cm。あと2cm。あと――

「や、やめろっセバスチャンッ!!!」


凄い力で胸を押され、シエルが逃げる。
そのままの体勢で動けなくなってしまった。

「坊・・ちゃん・・・?」


明らかな拒絶。
今まで羞恥から逃げるような素振りをしたことはあったが、このようにあからさまに拒絶されるような事はなかった。

何故?
何故ですかシエル?
私達は恋人でしょう?あんなに愛し合っていたではありませんか。

聞きたいことは山程あるが、今は何一つ言葉にすることが出来なかった。


「部屋から出て行け」

「ですが・・・!」

「一人にしてくれっ・・・!!」


そう命令するシエルは今にも泣きそうに顔を歪めている。

(泣きたいのは私のほうなのに何故貴方がそのようなお顔をなさるのです?)

それでも従わずにはいられずに、御意と一言答えて部屋を後にする。

嗚呼・・・貴方の考えていることが分からない。



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