4.Festival ―祭り
モルダバイト、と石の名前を教えると、イヴェットはしげしげとシエルのブレスレットを眺めた。セバスチャン、シエル、イヴェットの三人がついたテーブルには、現場監督のジドラーも何事かと見に来るほど人が集まっていた。
「それで、明日庭園で『夏の夜の夢』の仮面劇を演じる話ね、オラーさんにはテントを使わせてくれるよう頼みましたわ」
「私がライサンダーで坊ちゃんがハーミアですね」
「ディミトリアスは、アンリ。パックがエミールよ」
何で僕が女役なんだ、といつもなら口を挟むところだったが、シエルは黙って聞いていた。劇といっても大幅に筋を省略した短いもので、最後にイヴェットに歌わせるのが目的だった。イヴェットの人気を後押しするために、ホールでダンスが行われている間、庭園の客の前で演じようというのだった。ムーラン・ルージュの庭園は他にも、様々な芸を披露する場として使われていた。
カドリールの熱気を背に、ダンス・ホールからパリの秋宵へ身を滑らせる。
「…早く帰りたい」
黒革のチョーカーと首の間に指を挟んで、シエルはそう呟いた。
「外したいですか?」
屋敷に戻ると、シエルは物も言わずに柔らかいベッドに座り込んでしまった。
短いテールコートが脱がされ、ブラウスのボタンがゆっくりと外される。服の下から細い鎖が現れた。鎖は長く、緑色のブレスレットとチョーカーを繋いでおり、チョーカーには更に編んだ革紐が付けられていた。その紐は、体内に挿入された男性器の形をしたものへと続いていた。
「抜いて欲しいですか?」
「…」
その瞬間の気持ち良さは、知っている。
「あっ…」
胸の突起に指が這わされる。夜のキスは刺激が強い。抱き合い、脚を絡めると、セバスチャンの固いものが大腿に触れた。
この状況を、どうにかするためには。こちらから攻めていくべきではないだろうか。
シエルは荒い息を吐きながら、セバスチャン自身に唇を当てた。
「ガ…ガチガチだな」
「あの衆人環視の中で、坊ちゃんが必死に快楽に耐えていらしたことを考えてしまうと…ね」
「…っ」
革紐はおあつらえ向きの長さで、お辞儀でもすれば引っ張られ抜けそうになってしまうのだった。シエルはいつも以上に背筋を伸ばして座っていたが、店に入る前から下着には染みが出来ていた。座るときにも細心の注意を払った。やはりセバスチャンは、このイヴェットという貧乏娘にすら嫉妬してこんな仕打ちをするのだろうかとも思った。
「…扇を使って、お上手にズボンの前を隠されていたじゃありませんか?」
その愉しげな声は、初めて気持ち良さを教えられた日のことを思い出させた。
―坊ちゃんも、ちゃんと勃起するんですね。…
初めの愛情表現は、好きだという言葉と頬への軽いキス。
それがいつの間にか舌を絡めるキスになり、今までなんでもなかった入浴の時間が、急に恥ずかしくなった。
身体の変化に身を縮めていると、セバスチャンが耳元でそう囁いたのだ。
手で扱かれ、濡れた身体のままセバスチャンにしがみつくと、セバスチャンはいつまでも愛の言葉を囁いていた。
(あれから、もう…こんなに…)
お前のコレが、悪いんだ。シエルは固く立ち上がったそれを精一杯喉の奥までくわえた。舌で段のついたところを撫で、指で大きな陰嚢を揉む。セバスチャンの匂いをいっぱいに吸い込む。知らず知らずのうちに腰が上下し、自分の先端から零れた透明な液体でシーツが汚れていた。
(私のを舐めながら、腰を振って先走りを垂らすなんて…)
セバスチャンは目を細めると、革紐に指を絡め一気に引き抜いた。
「ンンっ…!!」
シエルはセバスチャンをくわえたまま射精し、シーツをギリギリと握り締めた。
「ぷはっ…は…あ…」
後ろからは、玩具を挿れられる前に注がれた、セバスチャンの精液が流れる。
「嗚呼…素敵ですね」
「いきなりっ…この、変態…!」
セバスチャンは白く柔らかい臀部を引き寄せると、息づいている赤い割れ目に自分の固いものを突き立てた。
「や、あっ…セバッ…ああああ!」
「もう、なにもかもわからなくなるくらい、私だけを感じて…シエル」
「ん…あっ…セ…バスチャン…!」
激しく揺さぶりながら耳を舐めると、セバスチャンの手の中でシエルは絶頂に達した。身体の奥に新しい精液が注ぎ込まれるのを、薄れてゆく意識のなかで感じていた。
→next